2007年から取り組んできた『みやぎの自然体験ガイド』完成記念と、これまで3年間の環境基金事業の総括として「第3回ふるさとみやぎに学ぶ〜自然体験ワークショップ」が、2010年6月2日、せんだいメディアテークにて開催されました。自然観察・自然体験教育などに取り組む宮城県内の施設・団体・教育関係者123名が参加して、特別対談・事例報告・パネルディスカッションを通して自然体験や協働のあり方を討議し、交流会では情報交換を図りました。

第一部・特別対談 「陸の森・海の森」
「陸の森・海の森」をテーマに、東北大学植物園園長 鈴木三男氏、南三陸自然環境活用センター所長 横浜康継氏の特別対談を行いました。鈴木氏は「五千年の歴史遺産・里山」と題して、「里山の起源は縄文時代までさかのぼる。森の民(縄文人)は森の恵みで生きてきた。里山の役割には炭酸ガスの蓄積、水分の貯留と平均化した放出、生物多様性の場などがある。持続可能な里山とするためには20年ごとの定期的伐採や毎年草刈りが必要だが、現在は利用されない里山が荒れた林になり人と森が離れてきている。森がなくなって人は生きていけるだろうか」、横浜氏は「藻場の重要性」と題して、「海の森は陸の森の恵みを受けている。その恵みを受け海の中にコンブなどがうっそうとした森・海中林をつくる。森はアワビなどのエサや生物のすみか、微生物が魚のエサになり、海の浄化にも大きな役割を果たしている。海藻は陸上より温暖化の影響を受けやすく1〜1.5度違うと植生が変わり、枯れてしまう」とのお話がありました。

 対談では、大きな大気圏の循環系の中で海は大きな役割を果たし地球は成り立っている、海の森も陸上の森も地球温暖化の影響は大きいことなどが論議されました。
 鈴木先生は仙台の街のすぐ近くにありながら豊かな植生・生態系が保たれ国の天然記念物に指定されている東北大学植物園に、また横浜先生は海の森を見ることができ、海藻おしばを楽しめる南三陸町自然活用センターにぜひ自然観察に来て下さい、と話されていました。


第二部・事例報告
「太白山自然観察の森を活かした総合的な学習の取り組み」

仙台市立太白小学校教務主任 大場隆幸先生
「太白小学校では全学年が仙台市太白山自然観察の森をフィールドにし学習している。1・2年生は遠足や太白登山。3年生はホタルを育て、ホタル祭りで放し、地域の人々と感動を分かち合った。4年生は森の木や虫などの観察を一年間続け、五感を使って自然を学んでいる。5年生は子どもNPO活動(H17・18年)で市民を対象に森のガイドウォークを行った。6年生は太白山をイメージした商品を作り区民祭りで販売、売上でバス停のベンチを寄贈するなど、全校児童が太白山自然観察の森で遊び、学び、癒されている」と太白山自然観察の森を活用した学習の報告をしました。

第三部・パネルディスカッション 「自然体験を通じての人づくり・社会づくり」
 パネリストとして 自然と親しむ会会長 後藤一磨氏NPO法人 森は海の恋人 副理事長 畠山信氏川崎町立川崎小学校校長 服部和憲氏宮城県環境生活部自然保護課技術副参事 岸野清氏当協会企画部長 木村健太郎(予定していた東日本放送編成業務局長 森英生氏は鳩山首相退陣特番のため欠席)、当協会会員の 進藤恵美がファシリテーターを務め「自然体験を通じての人づくり、社会づくり」をテーマに討議しました。

 後藤氏からは、「現在は知識は豊富だが現場に連れて行くと、何をしていいのか分からない子が増えている。親も子どももも自然との結びつきが希薄になってきた。子どもたちに自分たちが壊してきた人とのつながりや自然とのつながりなど、体験を通して伝えていきたい」、畠山氏からは、「山に木を植えることを通して、川や海を汚さないようになり、海の環境が良くなってきた。子どもの自然遊びが失われてきている。経験した人でないと子どもたちに伝えることができない。海で自然体験をした子どもたちの中から海の生物研究者や川を管理する官庁に勤める人たちが出てきている」とのお話がありました。

 服部氏からは、[本年3月まで勤めていた蔵王自然の家のチャレンジin蔵王で、雄大な自然から得た体験と感動で子どもたちが大きく成長した。学びとることは、体験を通して五感で感じとり、考え、その体験や感動を実際に役立てることで、知識はさらに広がる」、岸野氏からは「自由に使える県有林を増やし、禁止事項を減らしていくようにしたい。社員や家族が森で憩えるようにするために企業に森を貸し出した。いくつもの企業が森づくりを通して里山に入り自然体験を楽しみ、森が美しく生まれ変わってきている」
当協会木村からは、「若い世代の親は自然体験をしたことが少ない。その親の子どもたちにどう自然を伝えるか。子どもが自然の中で判断力がなくなったのは、森で遊ぶ体験をしなくなったことにある。宮城県県民の森で0歳から楽しめるイベントを主催しているが、県民の森では活動に制約があり、隣接した企業の森を整備して自由に遊べるフィールドを作っている。企業の森が増えれば普及・啓発活動が広がる」との発言があり、各パネリストの発言・討議によって、自然体験を通じての人づくりをするために、行政・教育現場・施設・団体・企業によるさらなる協働を進めていくことが不可欠であることが再確認されました。

 ファシリテーターの進藤恵美氏の質問に答えて、後藤氏:「われわれが活動しなければ孫の世代はない。学校は危ないことから子どもを遠ざけようとするが危険から逃れてばかりでは自然を体験できない。学校現場を生きる力を与える教育に変えるべきだ」
畠山氏:「木を植えるだけでなく、森を管理することが大事なこと。北上川流域の登米市東和町で里山の暮らしを体験しながら里山づくりを行っている。流域の森は広く、私たち一団体だけでは活動は難しい。他の団体や多くの県民と協力しながらネットワークを大きくしていきたい」 服部氏:「キャンプに参加した子どもの親から手紙が届いた。子どもたちが新しい発見をしてすばらしい顔をしていた。自分の気持ちを素直にあらわすようになった、などと書かれていた」 岸野氏:「以前は宮城の学校林活動は盛んだった。これからは自然体験のフィールドとして近くにあれば使いやすい。23年度から導入されるみやぎ環境税は森林整備やクリーンエネルギーの普及、環境教育や生物多様性確保になどバランスよく使うことにしている」 木村氏:「子どもたちが主体的に動くような観察会をしていきたい。この三井物産環境基金事業での一番の収穫は、同志がたくさんできたこと。いくつもの団体と連携して効果的なことができるようになった。さまざまな相違を乗り越えて協働していきたい」などの意見が交わされた。

第四部・交流会
会場を替えての交流会では、講師やパネラーを囲み、意見交換が続いていました。また3回目で顔見知りが増えたことや、『みやぎの自然体験ガイド』でお互いに活動を理解し合えるようになったことなどから交流の輪が一層広がり、和やかな雰囲気の中で盛り上がった交流会となりました。

「自然体験を通じての人づくり、社会づくり」という難しいテーマでしたが、講師やパネラーの方々の活動に共感を覚えた方々が多く、講師やパネラーの方々が普段行っていることが人づくりであり、継続し互いに協働し連携していくことが社会づくりの大きな力になっていくと予感させるワークショップでした。

【アンケート】
 参加者からのアンケートには「行政を含めた様々な立場の方から多彩な意見・発表があり勉強になった」 「パネラーの教育論に感動した。子どもの育成を考える場になる。これからも続けてほしい」などの意見が寄せられました。

 最後になりましたが、助成を頂いた三井物産株式会社様に改めて篤く御礼申し上げます。誠に有り難うございました。

三井物産環境基金は、地球環境問題の解決に向けた活動を支援、促進し、経済と環境の調和を目指す持続可能な発展の実現を目的として2005年に設立されました。これまでに国内外のNPOおよび公益法人から提案のあった60の案件に助成が行われ、三井物産社員の方々もボランティアとして活動に参加しています。


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